研究者の仕事術

実践と研究の両輪を回す実践的研究者の仕事のつくり方

研究が実践を生み、実践が研究を生む理想のサイクル。

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山内 祐平

東京大学大学院 情報学環 准教授 (※現在は教授)
NPO Educe Technologies 代表理事

研究テーマ:学習環境デザイン論
Twitter:@yuuhey

プロフィール詳細
http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/profile.html

研究にできない部分を実践として社会に還す。

Q:山内先生は、ベネッセとの産学連携プロジェクトであるBEATや、NPO法人Educe Technologiesによる社会貢献活動など、実践活動にも積極的に取り組まれています。このような社会的実践活動と、論文・書籍執筆などの研究活動の関係はどのように意識されていますか?

まず、研究といっても色々あって、基礎研究のような”川上”にいる人たちもいれば、社会に直結しやすい応用的な領域、つまり”川下”の人たちもいます。僕の研究(学習環境デザイン論)は特に最も川下の領域で、社会に直結して学習を支援する方法を扱っているため、社会貢献や実践活動をすることが研究の前提としてあります。

それでも、何か実践をしたからといって、それが全て研究成果につながるわけではありません。確実にいえること以外はなかなか研究には出来ませんから、ある実践的なプロジェクトから論文や書籍のアウトプットとして出てくるのは僕の感覚では10%以下です。実践から抽出された10%の知見を、学会で論文の形で共有したり、本を執筆したりするわけですが、90%が残るんですね。

適切な喩えかどうかわかりませんが、それは「豆腐」を作った後に「おから」が残るようなものかもしれません(笑) 10%の研究だけしておけば良いわけじゃなくて、豆腐よりも栄養値の高いおからを捨てるのがもったいないのと同じで、残りの30~40%くらいまでは、なんらかの形で社会に還せると良い。そんなことを意識しながら活動しています。

社会への還し方として、産学連携研究でダイレクトに企業の活動に研究的知見を埋め込む形、NPOのような社会貢献活動に研究のノウハウを活かす形、シンポジウムで情報を提供したり、ワークショップを開催してコミュニティをつくったりなど、色々な方法があると思います。とにかく、川下の領域にいる研究者としては、社会的実践活動から生まれた30~40%の部分を、次の実践活動として社会に価値を還していくことが重要だと、個人的には考えています。

もちろん全ての研究領域でこうしたやり方をするのは無理だと思いますし、領域によって違うやり方があると思いますが、教育の中でも応用的な領域の人や、それこそ福祉や看護など、社会問題を直接的に解決しようとしている領域の人には転移可能なアプローチだと思います。

研究のアイデアは言語化できない”勘”から生まれる。

Q:次の研究の種のようなものはどのようにしてつくるのでしょうか。過去に行ったことをもとに次の研究をつくるのだと思いますが、30~40%のおからの部分からつくるのでしょうか?

おからの部分も可視化されているので、実は豆腐でもおからでもない「残りの50%」からつくっています。残りの50%というのは、言語化も可視化もされていないんだけど、経験値として残っていて、「こういうことをやると、うまくいかないかも」という違和感のようなものが、”勘”として成立するんですね。そういう勘みたいなものは、言語化された知識よりも、非言語的に身体に残った経験の方が大きいと思うんですよ。例えば、ワークショップをやった時に、隅の方で全然活動に乗れていない子がいて、あの子はこういう理由で乗れてないんだろうな、というのが記憶に残っていたとします。この感覚だけではもちろん研究としては何もいえないし、そうした断片的な知識だけでは社会貢献活動も構成できないのだけど、こうして断片的に降り積もった身体的な記憶が、いわば氷山の下の部分のようなものとして構成されていく。それが、新しい研究アイデアを考える際に「この辺りを掘るとうまくいくんじゃないか」とか「こっちにいくとやばいな」という判断に効くんですね。こうした言語化されていない、社会に直接的には還しにくい経験値こそが、次の研究の源になっている気がします。

フィールドで培った学習者に対する想像力。

Q:山内先生のこれまでの研究をみてみると、やはりフィールドワークの経験値は大きかったのでしょうか。フィールドワークを通してそうした勘が身に付いていったプロセスについて教えて下さい。

萱野小学校でフィールドワークをしたのが、僕の研究者人生にとっての転機でした。それまでは現場に出るとしても2週間~1ヶ月程度の短いスパンでしたが、萱野小学校でのフィールドワークは「コンピューター室のお兄さん」という役割をもらい、3年間かけて行いました。そうやって、長い時間をかけてフィールドに入って観察する中で、授業として切り取られないリアリティがみえたんですよね。実は学校の先生は、そんなに細かくは観察していないんですよ。忙しくて休憩時間までは子どもたちを観察できないし、授業中もやることが沢山あるから、子ども一人一人を細かく観察しているわけじゃない。ところが先生とは違う立場でフィールドワークをする中で、休み時間も放課後も子どもたちを観察することができたし、授業中もじっくり観察できた。すると、子どもたちが考えていることとかやっていることって、当然ですけど、授業中と休み時間と放課後では全然違うし、人間関係も違うんですよね。そうした極めて多層的で多声的な状況を目の当たりにして、学習者に関する想像力のベースがそこで培われました。

フィールドワークに行くまでは、現場で大学院生としてコメントを求められた時に、学習科学や認知科学で明らかになった知見を話したりと、すごく理屈っぽいことを話してたんですね。そうすると、現場の先生には全然届かないんですよ。むしろ、反発される。たいてい「そんなことは言われなくてもわかってる」と言われるんですよね(笑) それがずっと悩みでした。ところが、フィールドワークを経験してからは、例えば「先生の授業案だと、こういう子どもは乗れるけど、乗れなくてこういう反応をする子どももいると思います。」といったように、子どものシミュレーションが出来るようになったんです。実際に授業観察後のコメントでも「あの子、こういう風にやっていましたよ」と具体的にコメントできるようになり、それから現場の先生たちが俄然話を聴いてくれるようになったんです。理論をそのまま伝えても伝わらないけれど、現場で起きていることを想像・観察して、それを元に何か付加価値があることを考えて還すことが出来れば、実践に寄与することが出来る。それからは現場を観察することもすごく面白くなって、人間の学びにより関心が持てるようになった。そしてそれを現場に伝えると先生たちが喜んでくれる。そういう研究と現場の回路が繋がった経験が、僕にとっての転機でした。

ちなみに、この研究のあとは、美馬のゆりさんと一緒にやった高校生と科学者をつなぐ研究につながっていくんですよね。萱野小学校のフィールドワークは純粋にそこで起きていることを記述するタイプの研究でしたが、この研究では科学者と高校生をつなげて何か良いことを起こそうと、美馬先生や吉岡先生が現場の学習環境デザインをした実践を、僕が記録した研究なんですね。この時は「こういう介入をした時に、人はこういう反応をするんだ」というのが観察できたことが非常に勉強になりました。また、小学生ではない、高校生や科学者という違う対象を観察できたことも大きな経験でした。

観察の視座を広げるための文献レビュー。

Q:大学院生にもフィールドに出るように指導しているのはどのような意図ですか?

第一に、いくら僕が言葉で説明をしても、現場をみる目や学習者への想像力は身に付かないので、それを養って欲しいからです。第二の理由は、これからの研究者は研究だけでなく社会的実践活動が出来ることが必須になりますから、実際に実践をやってみることで、手が動く研究者になって欲しいと考えています。

Q:一方で、フィールドに出ようとする大学院生に、現場に出ずに文献のレビューを続けるように指導することもありますよね。その判断基準はなんですか?

あー、それは自分でも言語化できてない部分だなぁ(笑) おそらく、フィールドでものが見えるようになるための条件みたいなものがあるんですよ。問題意識がどこまで深まっているか、視座がどこまで広がっているか、というので現場で見えるものがだいぶ変わってくる。たとえば、社会人の人たちはものすごく狭くて強い問題意識を持っている。そのかわり、狭すぎて横が全くみえない。その状態でフィールドに出ても、逆に何も見えないことがあります。そこで文献をレビューすることによって、こういう見方もある、別の見方もある、と、ある程度視座が広がれば、フィールドで見えるものや気がつくことが増えていきます。だから、ゼミでは大学院生のレビューを聴きながら、問題意識の深まりや視座の広がりをモニターしていますね。文献を何本レビューしたかが大事じゃないんです。もちろん沢山レビューすることは大事だけど、機械的に読んでいても視座は広がらなくて、文献と対話しながら、その研究をした人の視点を自分のものにしていかないと、いつまで経っても視座は広がらない。読み方が大事なんですよね。

産学連携によって研究成果を現場に届ける。

Q:社会的実践活動について伺います。実践活動には様々な形があると仰っていましたが、その中でも産学連携研究はどのような位置づけでしょうか。

産学連携研究の場合は、企業とアライアンスを組みながら、研究と実践を同時に行っていくイメージです。例えば、産学連携研究であるBEAT学習ナビのプロジェクトでは、学習方略と成績の関係を分析した上で、学習者に合う学習方略を提案するという研究を行いました。この時は、はじめから完成したシステムをベネッセのウェブサイト上で使えるようにすることを目指しており、実際に現在はベネッセのウェブサイトに統合されています。このようにすると、研究したことが論文で止まらずに、そのまま直接高校生に届くんですよね。企業は直接現場に届けるためのリソースやパスを沢山持っているので、研究を研究で終わらせないようにするには、企業とパートナーシップをつくるのが大事だと思っています。

学習ナビ

法人格を持って社会的実践活動をするメリット。

Q:NPO法人で行う実践活動はどのような位置づけですか?
法人格を持って社会的実践活動をするメリット。

Educe Technologiesでは色々な取り組みをしていますが、例えばFLEDGEという勉強会は、学びの場作りに関心のある大学生を対象にした、ワークショップデザインの方法について学ぶための勉強会です。こうしたテーマに関心のある大学生は多いのに、若い人たちが学ぶための機会がそんなに無いなあと思ったんですよ。僕たちにはワークショップのノウハウはあるわけだから、そういう場をつくれば、社会貢献になると思ったんです。NPOの活動としてEduce CafeやLearning barのような実践活動もありますが、より若手の人材育成に踏み込んだ実践として、FLEDGEを立ち上げました。

Q:NPO法人Educe Technologiesを立ち上げたきっかけを教えて下さい。

Educe Technologiesを立ち上げたのは今から7~8年前です。理由は社会貢献をするためという理由ももちろんあったのですが、実は当時の大学はあまり小回りが利く組織じゃなかったんですよ。簡単にいえば、企業との協同研究や社会貢献事業をやる際に、大学からスピンアウトした方がやりやすいと思ったので法人格をつくりました。

具体的に言うと、若干下卑た話になりますが(笑)、1つには収入面の理由があります。大学教員として外でコンサルティングの仕事を受けた場合、専門的知識を提供して価値のある仕事をしても、例えば企業のコンサルタント等と比べると圧倒的に対価が安い場合が多いんですね。菓子折りだけという場合もある(笑)。世の中の仕組みとして、これは不条理だなぁと思ったんですよね。ところがきちんと法人格を持って、仕事の価格を設定しておけば、同じ仕事内容でもきちんと相応の対価を得ることが出来ます。専門性を安売りせず、相応の見返りが得られる仕組みが必要。それが、法人格をつくった1つ目めの理由です。

もう1つの理由は、支出面の理由です。実は大学の支出の仕組みはとてもかたくて、融通が利かない。たとえば、イベントにゲストを呼んだとしても、飲食費にお金が使えないため接待ができません。また、ゲストに謝金を支払おうと思っても、総長クラスはいくら、教授クラスはいくら…、と謝金のレートが規定で決まっているんです。海外の偉い研究者を呼んでこようと思ったら、規定の額ではなかなか来てもらえません。ところが、イベントをNPO法人との共催にしてしまえば、支出が補完できるわけですよ。やはり法人格があるのとないのとでは、やれることが全然違いますよね。

もちろん、株式会社という手もありましたが、お金を儲けたかったわけではないですし、企業だと営利目的になるため嫌がられる可能性もある。教育の領域の場合はNPO法人の方が仕事の幅が広がると考え、NPO法人にしました。

研究と実践を支えるコミュニティをつくる。

Q:シンポジウムやワークショップのような実践はどのような位置づけですか?

もちろん発信した情報が誰かの役に立つということはあると思いますが、それ以上に重要なのは、シンポジウムやワークショップのようなイベントは、自分の研究領域に関心がある人たちがゆるやかにつながるためのコミュニティ作りだと思っています。研究者主催の シンポジウムというと、「文科省がうるさいから」「情報公開の義務だから」といって仕方なくやる人が多いですが、それでは人が集まらないし、集まってもろくなことならない。それよりも、そこで出会った人たちが、次の新しい研究や実践に継続してコミットしてもらえるような関係作りをかなり意識してやっています。

例を挙げると、BEATで行ったSoclaプロジェクトの実践の際に、サポーターをTwitterとFacebookで公募したんですよね。実はこの時に核になって動いて下さったのは、これまでBEATセミナーに参加してくれていた人たちだったんです。シンポジウムにわざわざ脚を運んで下さるほどコミットメントのある人たちだから、そういう呼びかけをした時に、RTなども含め、一番に反応してくれた。今年の実践が成功したのは本当にその方たちのおかげだと思っています。

研究と実践を支えるコミュニティをつくる。

実践が研究を生み、研究が実践を生む理想のサイクル。

Q:Soclaプロジェクトについてもう少し詳しく教えて下さい。

先ほど、萱野小学校のフィールドワークの次に、高校生と科学者をつなぐ研究をしたと話しましたよね。実はSoclaプロジェクトは、この研究の際の”言語化できない50%の経験値”の部分を利用してつくられたものなんです。高校生と科学者をつなぐ研究では、電子掲示板というクローズドなネットワークを利用していました。ここで培ったクローズドな学習を支援するための経験や仕組みと、ソーシャルメディアの開放性を両立させるための仕組みをつくって実証的に研究する、というのがSoclaプロジェクトです。

実践が研究を生み、研究が実践を生む理想のサイクル。

この研究で最も意識したのは、「ここで生まれた関係を、研究が終わったあとも続けたい」ということでした。Facebookを選んだ理由は、実名で堂々と登録して、ある程度の安全性があって、そのまま関係性を継続させたいと思ったからなんですね。そして実際に、現在は研究期間をもう終えているのですが、Facebook上で「同窓会」というのが出来ていて、今でも関係がそのまま自律して続いているんですよ。こういうことは、実は今までのプロジェクトでは全然できなかったことなんです。産学連携のように知材を移転して企業の中に残すということはありましたが、研究そのもの枠組みがそのまま維持されるというのはとても大変なことです。先ほどお話しした高校生と科学者のネットワークをつくった時も、あの研究を行った2年間で関係が終わってしまいました。そのまま継続するのはとても大変だし、大学は新しいことをどんどんやっていかなきゃならないから…。それがとても悲しくて、出来れば研究したことがそのまま続けば良いな、とずっと思っていたんです。今回、Soclaプロジェクトで初めてそれが実現できて、とても嬉しかったです。

集まってくれたサポーターの人たちと、高校生たちが、Facebook上でコミュニティとして自律していて、くだらない話もしているんだけど(笑)、関係性が続いてるんですね。今は彼らは高校2年生だけど、多分高校3年生になったらまた色々と質問をし始めるでしょうし、大学3年生になったら今度は就職の話をし始めると思うんです。もし本当にそこまで関係性が続いたとしたら、その5年間でもう1回研究ができる。一粒で二度美味しい、三度美味しいモデルですよね(笑)

要するに、研究によって社会的な関係性が生まれ、その関係性がまた次の研究を呼ぶ循環モデルです。このサイクルをつくることが出来たら、研究者にとっても社会にとっても嬉しい、最も理想的な形ですよね。

大学が社会を変えるために。

Q:仕組みをつくることが重要なんですね。

仕組みを考えるのはとても大事です。研究者は論文を書くことにどうしても意識をフォーカスしてしまいます。論文を出すことはとても大事で、やらなければいけないことなんだけど、これからの研究者は論文を出すだけでなく、論文が出るような周囲の仕組みを意識的かつ戦略的につくっていくことが重要になります。

僕は、大学は社会にとっての問題解決とイノベーションの府になるべきだと考えています。そのためには、研究は研究、社会的実践は社会的実践、と切り分けてやっているままでは無理だと思ってるんです。少なくとも、川下の領域にいる研究者は、研究と社会的実践がぐるぐる回り続けるような回路を大学の外側に構築し、そうした関係性が出来ているから、川上の基礎研究をやる人が安心して研究できる…という仕組みをつくる必要がある。川下にいる研究者は、一斉に先頭に立って、是非そういう回路をつくって欲しいと思います。みんなが一斉にそういう動きをすれば、大学はものすごい組織になれると僕は思ってるんです。

今の社会の中で、大学だけが圧倒的な余裕を持っています。つまり、イノベーションのポテンシャルを持っている。ここしか僕はないと思ってる。より多くの大学の研究者や、博士課程の学生さんが、社会に価値を生み出しながら研究業績が出るような仕組みをそれぞれの領域でつくりはじめたら、日本の大学は変わる。そうすれば日本全体にも大きなインパクトがあるだろうと、僕は希望を持っています。

関連URL

Twitter @yuuhey
http://twitter.com/#!/yuuhey

ylab 山内研究室
http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/

NPO法人 Educe Technologies
http://www.educetech.org/

BEAT
http://www.beatiii.jp/index.php

山内祐平(1999)ネットワークコミュニケーションの実践力を育てる場としての学習環境デザイン. 日本教育工学雑誌 23(1), 37-46.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003026658

山内祐平(2003)学校と専門家を結ぶ実践共同体のエスノグラフィー. 日本教育工学雑誌 26(4), 299-308.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003026467

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